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グリム童話、最古の日本語訳、新発見

岩波「文学」誌2008年7,8月号(第9巻、第4号、2008年7月25日発行)所収の論文、府川源一郎「アンデルセン童話とグリム童話の本邦書訳をめぐって −明治初期の子ども読み物と教育の接点−」は、著者がこれまで知られていなかったグリム童話アンデルセン童話の日本語訳を発見したことの報告だ。
それによると、1873(明治6)年に出版された『サルゼント氏第三リイドル』(松山棟庵訳)に、グリム童話KHM184「くぎ」が載っている、と。
これまで、一番古い翻訳は、1886(明治19)年(この論文では1986年となっているが、もちろん誤植)の『ROMAJI ZASSHI』に「羊飼いの童(男の子)」(KHM152)であるとされていた(川戸道昭氏がたしか2000年頃に発表したのだと思う)。その翌年に、菅了法(すがorすげりょうほう、桐南居士)の『西洋古事 神仙叢話』のなかで、11話が訳されている。
明治20年前後と、この『サルゼント・・・』が出た明治6年、10年以上も前だということも重要だが、明治維新以後の教育システムが整備されてきた明治20年頃と、まったくの初期、いまだシステムを手探りで構築中の明治初期では、その持つ意味が大きく異なるのではないかと思う。
同時に、論文中で著者が述べているように、大人向けの不思議なお話集であった菅了法の本より以前に、「子どもたちの育成・教化」を目的とする翻訳が出されていた、ということが、ここではポイントだ。
しかし、『サルゼント氏第三リイドル』って、かっこいいタイトルだな。アメリカの「国語」の教科書、Sargent's Standard Third Reader (1868)の翻訳なのだと。