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ハンス・トラクスラー『本当にあった?グリム童話「お菓子の家」発掘』(現代書館、1012年1月)

矢羽々崇・たかおまゆみ訳。副題は「メルヒェン考古学『ヘンゼルとグレーテルの真相」』。原書タイトルはHans Traxler "Die Wahrheit über Hänsel und Gretel"、1963年刊。

本当にあった?グリム童話「お菓子の家」発掘―メルヒェン考古学「ヘンゼルとグレーテルの真相」

本当にあった?グリム童話「お菓子の家」発掘―メルヒェン考古学「ヘンゼルとグレーテルの真相」

出版されたときにセンセーションを巻き起こしたという本が、50年経って日本語になった。
グリム童話ヘンゼルとグレーテル」が実は史実に基づいたものであり、民間研究家たるゲオルク・オセックなる人物が、シュリーマンよろしく森の中から「お菓子の家」を発掘、そして「魔女」とは実は…そして二人の兄妹は彼女を…。貴重な文献まで探し当て、真の事実を「解明」するまでを報告する本なのだ。
もちろん、これはパロディの一変種である。よくできている、が、今となっては読んでどうというものでもない。訳者がこの本を日本に紹介した意図は、

 たちの悪い、パロディとも言えない桐生本(=桐生操『本当は恐ろしいグリム童話』のこと:引用者註)とは異なる、良質のパロディはないだろうか。そう考えたのが、このハンス・トラクスラーの『ヘンゼルとグレーテルの真相』(Die Wahrheit über Hänsel und Gretel)』(1963年)を訳そうと思ったきっかけだった。(166ページ)

ということだという。
訳者による、グリム・メルヒェンのパロディについての詳しい解説が、むしろこの本の価値を高めているように思う。グリムが「決定稿」として文体を確立してしまったため、その後に「メルヒェン」を語ろうとする作家たちは「グリムのエピゴーネン」にならぬ道を探らねばならなくなった。どれもが「パロディ」的なものにならざるを得なくなった。「メルヒェンのパロディとは?」「メルヒェン・パロディの歴史素描」というタイトルの解説は、グリム童話に興味のある方には面白く、勉強になるはず。
作者ハンス・トラクスラーは1929年生まれの風刺画家、イラストレーター。1960年代初めにフリードリヒ・カール・ヴェヒターらと風刺雑誌 "PARDON" や "TITANIC" などで活躍。執筆陣は「新フランクフルト派」などと呼ばれ、その仕事はフランクフルトに2008年にできた Caricatura Museum Frankfurt (Museum für Komische Kunst) でみることができる(らしい、まだ行ってない)。
http://www.caricatura-museum.de/index.php
ヤーノシュの『大人のためのグリム童話』とフェッチャーの『だれが、いばら姫を起こしたのか』は翻訳があるから、あとはパウル・マールの「魔女が語る悪いヘンゼルと悪いグレーテのお話」(1968年)が翻訳されると、1960年代の「反権威主義的」パロディがそろうのだけど。あと、ヴェヒターの『アンチ・もじゃもじゃペーター』も日本語版がでるといいな。
(追記:マールの作品は、この本の中であらすじが紹介されている。)