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松永和紀『メディア・バイアス』(光文社新書、2007年4月)

メディア・バイアス あやしい健康情報とニセ科学 (光文社新書)

メディア・バイアス あやしい健康情報とニセ科学 (光文社新書)

評判は聞いていたものの、読みそびれていた本。
食、環境問題、健康などに関するメディアの記事・報道が、いかに偏り、無責任で、不勉強であるか。そこにある「バイアス」を、具体的に解説している。
あるある大事典」事件でそれは大きくクローズアップされたわけだけど、一部の問題ある人たちがいけない、というレベルじゃない、ということが、よおくわかる。
目についたところをいくつか。
・1990年代後半から、開業医のあいだでは、「みのもんた症候群」なる言葉が語られていた。みのの言うとおりにして、体の不調を訴える患者。
・「リスク」と「ベネフィット」を常に考えねばならないこと。どんな化学物質にもリスクはある。そこだけを取り出して騒ぐのが、「〜が危ない」系の人たちのやり方。
・科学的思考の基礎を確認せよ。たとえば実験のあり方、「一日摂取許容量」の意味、など。
・「環境ホルモン」「化学物質過敏症」に対する、現在の専門家の認識。前者はほぼ否定されている。研究費ほしさの学者、「庁」から「省」に格上げされるところだった環境省の思惑、なども絡んでいた、と。後者は、いまだわからないことが多い。一部の医師の先走りが、問題を大きく、ややこしくしている。
・「添加物」バッシング。テレビによく出てたオジサンの怪しさ。本の科学的間違いの多さ。たとえばコンビニなどでの「合成保存料・着色料不使用」が、よけいに添加物の使用を増やしており、食の安全をより脅かしていること。研究者のほとんどは、天然の着色料よりも合成着色料の方が安全だと考えている、と。安全性と情報開示に合理的かつ真摯に取り組む企業が損をし、非合理的な言辞を弄することでうまく「宣伝」する企業が得をしている(「セブン−イレブン」が例として挙げられている)。

どこかで聞いてはいたものの、今回読んで改めて驚いたのは、有機食品や無農薬栽培の農産物が「安全」「おいしい」という証拠は全くない、ということ。「スローフード」運動のうさんくささはまあ感じていたところだが、「伝統的な食」に帰れ、というときの「昔」が、実はある種ねつ造されたものである、というのも非常に興味深い。実は戦後のアメリカ主導の「生活改善普及事業」が今の日本の豊かな食の土台作りをした、と。
その他、マイナスイオン、「水からの伝言」、遺伝子組み換え作物バイオ燃料など、「トンデモ」から政治まで、考察の際に必要な要素の基礎が、わかりやすく説明されている。
この本に書かれていないことで、現在の最大のトピックは「地球温暖化」だろうが、それに関しても、基本は同じだろう。まずは、信頼できる解説者をみつけることだろうか。