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岡田温司『グランドツアー 18世紀イタリアへの旅』(岩波新書、2010年9月)

筑摩書房70周年記念の文庫復刊、ラインナップが決定し、その中に野村泫(ひろし)先生の『グリム童話』が入った。すばらしい。ちくま学芸文庫
カントーロヴィチの『王の二つの身体』やジークフリート・クラカウアー『天国と地獄』も復刊されるのだ。
http://www.chikumashobo.co.jp/blog/news/entry/500

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岡田温司の『グランドツアー』読了。

グランドツアー――18世紀イタリアへの旅 (岩波新書)

グランドツアー――18世紀イタリアへの旅 (岩波新書)

18世紀から19世紀にかけての文学・芸術を考える上で、「グランドツアー」は大切なトピックである。あこがれのイタリアへと赴く側から記述ではなく、受け入れる側であるイタリアの事情・状況を描いているところがポイント。
「はじめに」に、こうある。

「グランドツアー」は、いわゆる「ヨーロッパ」という意識の形成にとっても重要な契機となっているのだ。また近年、十八世紀の文化や芸術、文学や思想の研究において、各地のサロンや人的交流ーーいわゆる「文芸的公共性」ーーの果たした役割がクローズアップされているが、その意味でも「グランドツアー」の意義は大きい。

ドイツで言えば、まず名前の挙がるのはゲーテとヴィンケルマン。この本でも各所に出てくる。
「ピクチャレスク」、「崇高」。自然と人工物の一体化。小説のなかの自然描写も変わってくる。地質学、植物学と文学。ゲーテで言えば、形態学。「カプリッチョ(奇想画)」、「ヴェドゥータ(都市景観図)」。ヴィンケルマンとピラネージ。
シチリアへの旅はホメロスへの旅だった、というのがおもしろい。シチリアへ行くゲーテは自分をオデュッセウスに重ね合わせる。そこでは風景に神話がレイヤーとなってかぶさるのだ。
この200年で「美」の意識がどれほど変わったか。その変容の契機がこの時代にある。