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寺澤盾『英語の歴史』(中公新書、2008年10月)

東京大学大学院総合文化研究科言語情報科学専攻准教授」であるところの、英語史の専門家による英語史ハンドブックである。
ドイツ語の授業で、英語だとこうだけどこれはどういう歴史的経緯でこうなっている・ドイツ語と違っているのだろうなあ、なんて学生と「?」となることはたまにあって、英語史の本を読んでみようかなあと思うのだけれど、わざわざ専門書の棚に行って、というほどでもないしなあ。
というところに、新書で登場。さっそく買って読む。
 第1章 国際語としての英語
 第2章 英語のルーツ
 第3章 語彙の増大
 第4章 綴り字・発音・文法の変化
 第5章 英語の拡張
 第6章 現代の英語
 第7章 英語の未来
情報の取捨選択、具体例の質と量、などにおいてとてもバランス良くまとめられていて、ハンドブックとして「使える」本であると思う。往年の新書的な、知識の本としてのクールな書きぶりが良い。
ぼくの関心における注目ポイントは、まず第2章の、ゲルマン語派としての英語、というところ。英語とドイツ語の類似、音の対応(th:d, t:z/ssなど)、グリムの法則。
おっ、コラムでグリム兄弟の紹介が1ページ。「本職は言語学者および民間伝承研究家」だ、と。グリム童話は「副産物」と。改訂の話も。「灰かぶり」は初版では能動的な女性だが、第7版では受動的な存在になっている、とのこと。「近年、フェミニズムの立場から批評が行われている」。ふむ。
あとは第4章。綴り字の話、中英語後期の第母音推移の話は、授業で紹介できるかも。
文法のところで、2人称代名詞の項目は、非常に参考になる。「尊敬の複数」は、現代ドイツ語に関わる問題だ。
それと、法助動詞(ドイツ語文法では話法の助動詞)、can/may/mustの意味の歴史的変遷、が興味深い。「能力・可能」から「許可」、そして「義務・命令」と意味が連鎖的に変化してきたのだと。
助動詞のdoの起源、なるほど。

本全体としては、現代と未来の英語について大きな紙数を割いて解説しているところが特色なのだろう。
ハリー・ポッター』、もとの英語版とアメリカ版では「微妙に異なっている」んだって! タイトルも少し違うし、新入生を寮に振り分ける場面で、アメリカ版では黒人の少年が付け加えられている! 
著者も、「これは(やや行き過ぎた)affirmative actionといえようか」と。