ホンダヨンダメモ(はてなダイアリー版)

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種村季弘展

今年は種村季弘の七回忌、それに合わせて(ということなのかどうか)スパンアートギャラリーで「オマージュ種村季弘展」が開かれている(後期「種村季弘の漫遊記」、20日まで。前期「種村季弘マニエリスム」は終了)。スパンアートギャラリーのオーナーは種村季弘のご子息である。
今日、行ってきた。前期はうっかりして行けなかった。地下鉄の日比谷駅から歩いてプランタンの少し先。薄曇りの空からたまに弱い日差しが落ちてくる。いつもの平日よりも少し人通りが多い気がするのは、新装なった三越のせいか。
氏の写真、生原稿、澁澤龍彦を始めとする氏あての手紙、ゆかりの芸術家たちの作品などが展示されている。それと、壁一面に並べられた著作の数々。
印象として、ここには今現在の風は吹いていない。新しい作品もあるのだが、過去がひっそりとしまわれている小部屋を覗いている感覚に、少々寂しさを覚えつつゆっくりと見て回る。
澁澤龍彦は書物の中=夢の中だけに生きていた人だから、おそらくある種の感性を持った若者に読まれ続けるだろう。しかし種村季弘は自分の生きる現実の世界にずっと多くその体を浸していた人だったがゆえに、もうすでに「わかりにくい」存在となっている。
種村季弘の生きた時代の芸術との関わりで見れば、そういうことだ。しかし逆に、グスタフ・ルネ・ホッケとマニエリスム象徴主義、ノイエ・ザッハリヒカイトと魔術的リアリズム、などなど、西洋美術のあるひとつの流れの紹介者として、その存在の唯一無二なことは、よりはっきりと見えてきている。
この展示を機会に出版されたという本、『種村季弘と美術のラビリントス』(相馬俊樹編、発行アトリエサード、2010年9月)をギャラリーで買い、ちょっと歩いて次の用事を済ませたあと、七丁目の椿屋珈琲店に入って読む。落ち着いた雰囲気のなかでゆっくり読もう・・・と思ったら関西弁のおやじの団体が入ってきて大声で談笑を始めた。ああ、読書していた上品なご婦人がすぐに席を立ってお会計へ行ってしまったよ。まあ、それもこれも銀座である。

種村季弘と美術のラビリントス〜イメージの迷宮へようこそ (TH Series ADVANCED)

種村季弘と美術のラビリントス〜イメージの迷宮へようこそ (TH Series ADVANCED)

「グロテスク」「エロティシズム」「悪魔」「世紀末」「人形」という5つのキーワードを挙げ、そのテーマに即した単行本未収録の文章を載せている。巻末には編者の相馬俊樹氏と画廊オーナーの種村品麻氏の対談。
ざっと読んだだけでも、現代美術の中にある美と反=美/脱=美の絡み合いが、おのずと見えてくる仕掛け、それは解説・編集の力でもあるだろう。企画の趣旨からして、美術中心なのはしかたない。
全部は持っていない『種村季弘のラビリントス』全8巻、新刊は品切れ、古書店では2万円から2万5千円ほどの相場だ。さて、前巻揃えたくなったが、どうしようか・・・。