長山靖生『謎解き少年少女世界の名作』(新潮新書、2003年6月)
今日、恩師から電話があり、ブログ読んでるよ、と。うれしい。このブログはそもそもいくにんかの人にあてて書いているつもりだったのだ。読んでもらえたらな、と。
「歴史」を意識しつつ文学(大衆文学やSF)について旺盛な執筆活動を行っている、本業は歯科医である長山靖生の、『謎解き少年少女世界の名作』読了。
- 作者: 長山靖生
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2003/06
- メディア: 新書
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目次を見れば、どんな本なのか察しがつくだろう。
第一章 経済原理と世界戦略
フランダースの犬 貧しかった日本人にとっての「癒し系」
王子と乞食 偽王が偽造される民主主義への批判
小公子 日清戦争後の母子家庭を魅了した夢物語
宝島 「契約」の原理に貫かれたビジネスの過酷さ
吸血鬼ドラキュラ 「伯爵=カウント」に隠された怪物の正体
第二章 冒険の中の家族、民族、国家
家なき子 十九世紀フランスの正当な統治者は誰か
十五少年漂流記 少年も無縁でいられない英米仏の領土問題
ドリトル先生物語 物語に刻まれた無意識の侵略思想
西遊記 大衆が内包する異民族蔑視の中華思想
最後の授業 帝国主義の先兵としての国語教育
クオーレ 真の国家確立のために必要だった物語
第三章 「本当の自分」探しのはじまり
ピーター・パンとウエンデー
成長を義務づけられた近代人の無間地獄
若草物語 喜びと恐怖の狭間で揺れる「女の自立」
野生の呼び声 資本家の飼い犬か、自由な労働者か
少女パレアナ 孤児が生き抜くための巧妙な思想戦略
深読み? うがちすぎ? いや、著者の博覧強記と大衆文学(児童文学もそのいちジャンルという側面があるだろう)に関する深い教養が、議論に説得力を与えている。子どもの本の、徹底した「大人読み」。
大事なのは、「批判」ではないところだ。時代が否応なく刻印されていることこそ、「名作」の重要な条件なのだから。