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池内紀『富の王国 ロスチャイルド』(東洋経済新報社、2008年12月)

本屋で経済書の棚を何気なく見ていたら、なんだかやけにカラフルな、しかしちょっと気味悪い感じの表紙が目に入った。
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明らかに周囲から浮いている。よく見れば、しりあがり寿の絵だ。タイトルは『富の王国 ロスチャイルド』。著者は・・・池内紀でした!
まあ池内先生がロスチャイルドについて語るのはふしぎではないけれど、置いてある場所と表紙との違和感がおもしろくて、思わず買ってしまった。
「はじめに」で、ロスチャイルド一族に関心を持ったきっかけが、1994年から95年にかけてフランクフルトのユダヤ博物館で開かれた展覧会「ロスチャイルド ー あるヨーロッパの一族」を見たことだ、と書いてある。
そのころぼくもフランクフルトにいて、ユダヤ博物館を含むいくつもの博物館・美術館が並ぶマイン河畔に住んでいた。この展覧会も観に行った。
ぼくがぼーっと展示を眺めているころ、池内先生は資料をしこたま買い込んで、いつか本にまとめてやろうと思ってたんだな・・・。
確かにロスチャイルドは興味深い。この本でも強調されているのは、一族が事業を受け継いでいく「システム」と、事業を展開する上での「ネットワーク」と「理念」を早々に確立したことが、その「王国」の基盤になっていることである。
同族経営の基盤としての同族結婚、子女教育の徹底。通信システムを整備した上での、情報収集力。フランクフルト、ウィーン、ロンドン、ナポリ、パリに散った2代目たちが独立性と相互補完性を見事にバランスさせ、フランス革命から始まる激動の時代を味方につけていく。
社会事業。学術への貢献。ワイン。イスラエル。「地中海クラブ」。「ロスチャイルド」という名前に結びつくものごとは、枚挙にいとまがない。
こういう評伝をさらりと、しかも読む者の気をそらせずにおもしろく語るのが、池内紀の真骨頂だ。
でも表紙は、やっぱり変だよ・・・。