ホンダヨンダメモ(はてなダイアリー版)

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井上ひさし『一週間』とゲゲゲ

巷はお盆休みという先週末、ちょっと時間を見つけて銀座松屋へ行ってきた。もちろん「ゲゲゲ展」をみるのだ。
そうしたらものすごい混みよう。年配の方々で大いに賑わっていた。ひるんだが、せっかく来たのだからとお代千円なりを払って入場、しかしあまりに人が多くてゆっくり見ることができない。人波のあいまを見つけて原画を味わう。会場構成は祖父江慎だ。
原画の美しさにびっくりする。どこまで水木しげる本人が描いたものなのかわからないが、墨とホワイトのおりなすリズムにうっとりする。
会場を出て、グッズ売り場で鬼太郎・猫娘のマグカップネズミ男ブックマーカーを買う。祖父江慎デザイン。ネズミ男を生み出したところにこそ、水木しげるの天才はある。

人をはぐらかす、この目。これがゲゲゲの世界の本質だ。祖父江慎はさすがにちゃんととらえてる。
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井上ひさし『一週間』(新潮社、2010年6月)を読み終えた。読み始めてとまらず、一気に読んだ。

一週間

一週間

ひとつの文で書かれた出だしのの8行から、もうぐいぐいと引き込まれる。変幻自在の語りに舌を巻く。全編どんでん返しの連続、歌も聞こえてくるしダンスも見えてくる。硬軟エロを取り混ぜて、シベリア抑留やソ連、日本という「国」の暴力・冷酷を、レーニンの手紙という小道具たったひとつで見せきった。
国家の根幹を揺るがす、紙に書かれた文字。それを武器にして必死に生きるひとりの人間。それは井上ひさし自身に重なって見える。その姿はときに滑稽でもあるが、それも含めてまるごと書いてしまうスケールの大きさ。
こういう「語り」を受け継ぐ人は、もう出てこないのだろうか。