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野口富士男『作家の手』(ウェッジ文庫、2009年12月)

春休みの娘と今年も近所の川へ桜を見に行った。

週末には満開になるだろう。桜祭りということで屋台なども出る。今日から4月。お約束通りの新年度風景である。仕事部屋の整理をなんとかやりとげて、授業開幕へ向けて準備を整えねばならない。
4月か・・・。
ウェッジ文庫に入っている、野口富士男の随筆集『作家の手』を読み終わった。

作家の手―野口冨士男随筆集 (ウェッジ文庫)

作家の手―野口冨士男随筆集 (ウェッジ文庫)

単行本として出版された随筆集からセレクトしたもの。編者は武藤康史
野口富士男は・・・これまで読んだことがなかったのだ。「文壇」、というイメージ。読むきっかけというか、とっかかりがなかった。
しかし、これを読んで見て、どうも肌に合いそうな気がする。
自伝的な文章、作家との交流話、芸者(女)や文学の話、など、ああこれがかつての「文学」だったのだな、と。
このところのぼくの文脈で言うと、単行本未収録という演劇に関する文章が興味深かった。
「築地のハムレット」(昭和8年)、「新劇雑観」(昭和9年)、「新劇往来」(昭和10年)、「新劇評判」(昭和10年)、「新劇の現状」(昭和10年)。著者20代前半に書かれた、当時の演劇状況スケッチである。
築地小劇場新築地劇団、築地座、左翼劇場、新協劇団、テアトル・コメディ。プロットや「メザマシ隊」の名前も出てくる。新劇というもののおおまかな流れが、通して読むとわかってくるようになっている。
この、演劇に関するいくつかの文章が集められ並べられているところに、編者の意図というか工夫があるのだろう。それは、編者後書きのタイトル、「演劇青年・野口富士男」からも明らかだ。
「新劇評判」では、築地座の創作劇三本が語られる。岸田國士『職業』、森本薫『我が家』(編者後書きによると、正しくは『わが家』)、久保田万太郎『釣堀にて』だが、そのなかで森本薫が褒められている。

「新劇がつまらない」という言葉を随所できかされるが、そういう人には新人森本薫君の「我が家」でも観せたいと思った。友田、田村、堀越、竹河四氏の努力は此の一篇を恐らく本年屈指の一幕にしていたと云えよう。

のちに『女の一生』を書いたあと、結核で34歳で亡くなる森本薫の、まだ大学生だった時のほぼデビュー作に近い作品を絶賛しているのだ。
おっと、娘が退屈している。行ってやらないと。もうすぐ昼ご飯も作らなきゃ。