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中野京子『名画で読み解く ハプスブルク家12の物語』(光文社新書、2008年8月)

名画で読み解く ハプスブルク家12の物語 (光文社新書 366)

名画で読み解く ハプスブルク家12の物語 (光文社新書 366)

 ヨーロッパ、特にドイツ語圏の歴史を知る上でハプスブルク家はもちろん外せないのだが、パワーバランスについての記述ばかりの歴史の本なんか読んでも、さっぱり全体像がつかめない。マリー・アントワネットもシシィも、栄光とドロドロの長い歴史の果てに登場したのだ、という、そのドロドロのところがわかると、おもしろいのだけれど。
 この本は、そこのあたりを、「名画」をうまく使うことで、新書というコンパクトな形で楽しく説明してくれる。おもしろいです。
 載っている絵それ自体は、ほとんどがそれほど僕にとって興味をそそるものではないけれど、著者の使い方、語りかたがうまい。そう、よく「ハプスブルク顔」って言うけど、絵で見せられるとなるほどと思う。63ページの『マクシミリアン一世と家族』という絵なんて、ちょっと笑っちゃう。
 最後の章はマネの『マクシミリアンの処刑』(上のマクシミリアンとは別)だが、著者はけっこう批判的なタッチで解説している。それはこの本の性格から来る意図的なやり方なのだろう。この絵は、19世紀後半に「国家」というものと人々との関係が決定的に変化してしまったのだ、ということをクリアに表現している。もはや、国家を「人間」あるいは「人格」が象徴することはできない。国民の「感情移入」を介しての統治は不可能になる。そしてハプスブルク家は終焉を迎え、国民全体が顔の見えぬ「国」というものによって大量殺戮される第一次世界大戦は、もうすぐそこだ。