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岡野宏文・豊崎由美『百年の誤読 海外文学編』

アスペクト、2008年3月)

百年の誤読 海外文学編

百年の誤読 海外文学編

 春の文学特集、その1。饒舌な文学語り部たる書評家ふたりが、20世紀100年の「世界の名作」100冊を、10年単位で10冊選び、読み、語る。5段階評価つき。連載がもとになっているとはいえ(「ダ・ヴィンチ」にて)、すごい。
 ドイツ語のものは、01〜10年ではヘッセの『車輪の下』とリルケの『マルテの手記』。ヘッセは書きぶりが偉そうで、なぜこれが「中学生必読の一冊」なのか、と。リルケは描写の小説、スケッチ小説だと。評価は高い。「いまの時代にリルケが生きてたら、絶対ブログ男になってるよね。」なるほど!
 11〜20年、カフカ『変身』、ツヴァイク『三人の巨匠』。カフカは両者満点。池内紀の訳は「批評的訳文の最たるもの」、これまでの訳では気づかなかったことが伝わってくる、と。ツヴァイクはこれ?
 21〜30年。トーマス・マン魔の山』。岡野は星2つ、豊崎は5つ。これ、高校の時読んではまったんだよなあ。大学でドイツ語選んだ理由のひとつだった。けっこう仕掛けのこらされた小説だと思うけど、そのあたりをトヨザキはコメントしている。仲間!
 31〜70年には、ドイツものはグラスの『ブリキの太鼓』があるだけ。確かに前書きにもあるように、ここから70年あたりまでは10年10冊では選びきれないだろう。ムージルは入れても良かった。『ブリキの太鼓』は両者満点。「変人奇人小説としても絶品」と。やっぱりおもしろいよねえ。ル=グウィンゲド戦記』の評価が低いのは、さもありなん。ル=グウィンは、SFものの方が圧倒的におもしろい。
 70年以降になると、急にラインナップに重厚感が薄れるのが、おもしろい。ドイツでは、エンデ『モモ』と、シュリンク『朗読者』。『モモ』の評価が高い(両者満点!)のが、うれしい。『朗読者』は、トヨザキ社長が、「中年女のためのドリーム小説」で、「前半は中年女による童貞陵辱プレイ、後半は年取ったハンナの面倒を見る介護プレイ」だって。拍手!
 ふたりがおもしろがっている作品は読みたく(読み返したく)なってうずうずしてくる、のが、書評家の力ってもんなのでしょう。あと、1971〜80年の前後に、なかなかすごい面々が並んでる。66冊目がブローティガン、次がガルシア=マルケスで、それからル=グウィンヴォネガット、アレナス、バース、ピンチョン、エンデ、ソルジェニーツィンバーセルミ、ロッジ、スティーブン・キングジョン・アーヴィングカルヴィーノエーコ、F・K・デッィク、ラシュディ、カーヴァー、ウィリアム・ギブスンクンデラ、と続く。アレナスとラシュディは読んでないけど、あとはどれも好きな作家たちだ。この辺、ぼくの読書の中心地帯のひとつなんだと、改めて発見。