奈倉洋子『グリムにおける魔女とユダヤ人』(鳥影社、2008年3月)
グリムのメルヒェン集と伝説集に登場する「魔女」と「ユダヤ人」について、メルヒェン集各版を詳細に比較することで、「悪」としての両者の扱われ方をクリアにしようという試み。最終的には、グリム兄弟がどのような社会的・歴史的背景のもとに思考していたのか、その一面をクローズアップすることになる。目次を挙げる。
1 グリムのメルヒェンと伝説の中の魔女たち
序章 魔女という存在
第一章 メルヒェン集の中の魔女たち Hexe, Zauberin, weise Frau
第二章 『ドイツ伝説集』の中の魔女たち
第三章 森の中の孤独な魔女と群れて踊る魔女 メルヒェン集と伝説集の中の魔女のちがい
第四章 女神から魔女へ ゲルマンの女神たち ホレとペルヒタ
2 グリムにおけるユダヤ人像
序章
第一章 儀式殺人(Ritualmord)伝説
第二章 グリムのメルヒェン集の中のユダヤ人像
第三章 グリムのユダヤ人像の背景にあるもの
第四章 ヘーベルの暦物語(Kalendergeschichten)の中のユダヤ人像
グリム兄弟が、魔女的な存在について、ある種の用語と概念の整理を行ったことがよくわかる。グリムのメルヒェンについてこれからなされるべき考察の出発点として、あるいは材料を提供するものとして、価値のある研究だと思う。
ユダヤ人に関する章も興味深い。でも、これだけ読むと、グリム兄弟って時代の風潮に単純に乗っかりがちの人なんだな、というイメージがけっこう強く残る。これも、さらなる考察の出発点ということなのだろう。