ホンダヨンダメモ(はてなダイアリー版)

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『イリアス』(ル テアトル銀座)

 「青空美人」の木内宏昌さんが脚本を書き(知り合いなので敬称つけます)、栗山民也が演出した舞台を観に行った。とりとめのない感想を。
 ホメロスの『イリアス』である。恥ずかしながら読んだことがなかった。『オデュッセイア』はぱらぱらと読んだことがあるのだが。
 そして、この舞台を見て、なんとも読みたくなって本屋にいったら、いくつかまわってどこも下巻しかない(岩波文庫)。とりあえず下巻を買って読む。
 というふうに、原作を読みたい気持ちにさせる舞台だった。こういうタイプの舞台として、良くできている、ということなのだと思う。
 人気者の内野聖陽アキレウスヘクトル池内博之。このなにしろ一本気なふたりの戦士が闘うわけである。トロイアの老王プリアモス平幹二郎アガメムノンが木場勝巳。このふたりがしっかりと舞台の枠をつくり、安定させている。平幹二郎はやっぱりすごい。ギリシャものには欠かせません。
 パトロクロスのチョウソンハが素晴らしい。池内とチョウは野田秀樹の『ザ・キャラクター』にも出ていた。あれはつまんなかったし、このふたりもあまり目立たなかったが、今回のチョウソンハの声と動きは舞台をキュッと引き締めていた。
 美男子揃い、そして新妻聖子馬渕英俚可という美女ふたり。久しぶりにこういう美しいもの尽くしの舞台を見たなあ。
 あれだけの長い物語を、そして神様と人間の思惑と行動が入り乱れて進行する物語を、わかりやすくかつ美しい言葉でまとめ上げた脚本。
 クールな舞台装置、直情的な人たちばかりの舞台に情感を添える音楽(生演奏!)、個々の登場人物のセリフと物語の説明を俳優に同時に語らせつつ、コロスを使って神々の存在を意識させつつ、しかし見終わったあとには登場人物たちの性格・行動・感情がしっかり心に残る、同時に俳優の魅力も存分に発揮させる、そんな演出。
 これはかなりテクニカルなことを行っていて、しかもそれを観客に意識させずにストレートに演劇を味わわせてくれる、そんな舞台でした。長丁場だから、最後の方ではどのように練れているかな。
 あと、告白すると、内野の衣装がちょっとコスプレっぽいというか、あまり似合ってなかった、ような気が・・・。上演が進むにつれて、役にもっと入っていくのだろう。
 ホメロスは物語の原型だ。エッセンスをとりだせば、たとえば『スターウォーズ』と重なるだろう。主要な登場人物をひとり取り上げれば、それでひとつの物語、舞台が生まれるのだ。