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岡ノ谷一夫著、石森愛彦絵『言葉はなぜ生まれたのか』(文藝春秋、2010年7月)

言葉はなぜ生まれたのか

言葉はなぜ生まれたのか

評判の本。そして確かに知的な刺激に満ちたおもしろい本だった。
進化論的なバックグラウンドから人間の言語の起源について考え、仮説を提唱するのである。

1章 「ことば」は、どこからやってきたのか?
2章 息を止められなければ、言葉はしゃべれない
                  ことばの4条件 その1
3章 デグーの「単語」 ことばの4条件 その2
4章 ジュウシマツの「文法」 ことばの4条件 その3
5章 ハダカデバネズミの「あいさつ」 ことばの4条件 その4
6章 ヒトは歌うサルだった? ミュラーテナガザルの歌
7章 赤ん坊はなぜ泣き続けるのか? ヒトが息を止められる謎
終章 ことばは歌から生まれた

こうやって目次を見るだけでも、わくわくするでしょ?

ぼくが言語学(の概説書)をたくさん読んでいた30年から20年ほど前は、言語の起源に関してあまり語られることがなかった。論証できぬものは語らない。むしろ言語という「制度」に参入する意味やプロセスがポイントだったのだ。チョムスキー生成文法では「生得的」という観点から起源論も語られたが、結局は抽象的な議論だったような気がする。
しかし、言語能力を基本的な認知能力の発達をベースに「創発」されて登場したものととらえる認知言語学的な考え方が広まるにつれ、「起源」の問題も、具体的な考察の対象として浮上するだろう。
音声(の習得)、意味論、統語論、社会言語論について、進化論的な観点からそれぞれ別個に発達してきたものとしてとらえる。それを具体的な動物の音声コミュニケーションの研究から跡づけていく。そこがものすごく新鮮で、おもしろい。
この本は文字とイラストが半々、漢字にはルビも振ってある。子どもに(も)読ませようという意図が明確だ。確かにこれ、読んで科学のおもしろさに目覚める子はたくさんいるんじゃないかな。ジュウシマツの求愛の歌に「分節」に見えるもの、「文法」に見えるものがあるなんて、ふしぎ。
けれど、ジュウシマツの歌の構造は実験から導かれた結果だけれど、ヒトの言語の起源にまつわる部分に関しては、あくまでも「仮説」にすぎない。それもまだ検証の途についたばかりの。そこを少しでも理解できるくらいになってから読ませたほうがいいのかも、とも思う。
それにしても、ハダカデバネズミはいいキャラクターだ。「ハダカ」で「出っ歯」で、しかも偉いやつが威張ってるんだって。それに関する本も著者は書いているようだから、読んでみよう。