ホンダヨンダメモ(はてなダイアリー版)

はてなダイアリーから移行。元は読書メモ、今はツイッターのログ置き場。

傷つくことだけ上手になって

ぼくが最初に観たときは、木村伝兵衛が風間杜夫、刑事は平田満、犯人が加藤健一、そしてハナ子は角替和枝だったか。
ぼくの演劇体験は、つかこうへいと井上ひさしで始まったのだ。『熱海』とか、『藪原検校』とか。これについては、つれていってくれた恩師のY先生にひたすら感謝するしかない。
役者の体がすぐそこで強烈なエネルギーを発していることの驚き。
不条理あふれるなかで、しかし人は生きていく。嘘をついても、妄想をでっちあげても、恥ずかしくても、人は人と、社会と、格闘しつつ、生きていく。強者と弱者がめまぐるしく交代しつつ、ふっとおだやかな和解が生まれる。
ああいうのを多感な10代で見ちゃったら、たまらない。
あまりに感傷的か、とは思いつつ、大津あきらのCDを探し出して、聞く。
「傷つくことだけ上手になって」。
つかの芝居の挿入歌を作っていた大津あきらも、すでに亡くなっているのだ。

   夢ひとつ たずねた朝は
   涙をつくろう紅もない
   降りそそぐ 雨にうたれ
   汚れた微笑み くりかえす
   だれの手に お前はひかれ
   だれの胸に お前は眠る
       (「泣きくずれたお前を抱いて」)

井上ひさし、つかこうへい、ふたりがいっぺんに消えてしまった。こうやって人生の一部分が少しずつ箱に詰められていく。ちょっとくらいおセンチになってもいいよな。