羽海野チカ『3月のライオン』(白泉社)
羽海野チカは、完結してから一気に読みたい。少なくとも数巻はまとめて読みたい。『3月のライオン』、2巻が出たときも我慢していたが、先日気がついたら1、2巻を持ってレジに並んでいたのだった。
- 作者: 羽海野チカ
- 出版社/メーカー: 白泉社
- 発売日: 2008/11/28
- メディア: コミック
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『ハチクロ』のあとは「ヤングアニマル」でプロ棋士が主人公の将棋マンガ、というのにみんなびっくりしたわけだけれど、「才能」というものが絶対的な価値を持つ(狭い)世界のなかで突出した能力を発揮する、幼く(外観が・年齢が)かつ複雑な過去を持つ主人公を中心とした物語、という点で、両者は共通している。おそらく、そのような設定のなかで自分の想像力がいちばんうまく働くのだということを、作者はわかっているのだろう。
主人公の零は史上5人目の中学生プロ棋士となった「天才少年」。しかしその「天才」は、家族を事故で失うということ、他人の家族を自分のせいで壊した(と自分では思っている)ことの結果としてある。
特異な才能と、子どもが大人へと成長すること。大切なものを犠牲にする・せざるを得なかったことで実現される能力。居場所探し。そんな主人公が触媒となって、周囲の人間たちの持つさまざまなストーリーもあぶり出されていく。真摯さと倫理観が、物語の背後にしっかりと根を張っている。
コマのなかの縦書きと、コマの間の黒地に白抜きの横書きと、主人公の心理的モノローグが、時に同時に、二重に重ね合わされる。大きな文字だ。その手法によって、主人公の心理が物語のなかで異様に浮き上がるのだ。
零の世話をする三人姉妹も、ライバルの二海堂も、すごく魅力的。
おととしだったか、ドイツ語科の4年生の授業で、ドイツで書かれた日本マンガについての論文を読んでいたとき、学生と『ハチクロ』の話で盛り上がって僕が持論を滔々と語ってしまった、ということがあったっけ。この作品も読んでいるかしら。