清野智昭『中級ドイツ語のしくみ』(白水社、2008年9月)
先日妻が、電車のなかで隣の人の読んでいる本をちらっとみたら、ドイツ語の参考書のようだった、と言う。「副詞は文の主語になれない」と書いてあり、*Wo ist hier? とか*Wann ist jetzt? とは言えない、という説明があった、と(盗み見で、よくそこまでチェックしたな)。
さて、数日して『中級ドイツ語のしくみ』を買い、読んでいたら、まさにその説明が出てきた。おお!
読んで、たいへんに気に入った。良い参考書だと思う。
「初級文法を一通り終えた方、あるいは長年ドイツ語を勉強していても何かすっきりとわかった気がしないという方を対象にしたドイツ語文法の解説書です」と、まえがきにある。後者がポイントだ。初級文法の教科書にある記述からもう少し「一般言語学」の方へと手を突っ込んで、ある文法項目の言語的・論理的背景を踏まえて解説してくれるのが、「文法」のお勉強のもやもやをさっと吹き飛ばしてくれるようで、とてもわかりやすい。
本の形式がいい。15の項目の中にいくつかの小項目があり、その小項目はそれぞれ見開き2ページ。色刷りも使わず、シンプルなのだが、非常に見やすい。本の大きさ、活字の組み方など、とてもバランスがいい。講義での語りのような文体も、この体裁に合っている。
たとえば英語のnotにあたるnichtを文のどの位置に置くかを、初級の段階で教えるのは難しい。しかしこのレベルまで来れば、「強い結びつき」の動詞句のパターンを確認することで、クリアに説明することができる。
あるいは、代名詞と指示詞。そこに言語外の現実・テクスト内との「照応関係」という視点を入れれば、その使い方は明確になる。さらにそこからは、1人称と2人称の「代名詞」は、実は場面指示的なダイクシス表現であり、厳密には「指示詞」の仲間だ、ということがわかってくる。
ドイツ語の研究者には自明のことであっても、それを学習者に向かってわかりやすく説明することは難しい。お薦めである。
- 作者: 清野智昭
- 出版社/メーカー: 白水社
- 発売日: 2008/09/01
- メディア: 単行本
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