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吉井仁実『現代アートバブル』(光文社新書、2008年9月)

 現代美術を専門とするギャラリーを開いているギャラリストの、ギャラリストの視点から現代アートを紹介する本。タイトルに「アートバブル」なんてついているけれど、中身は今日のアート・マーケット隆盛に批判的というわけではない。
 芸術、この場合は造形芸術だが、がマーケットと不可分の関係であるのは、了解している。いまやそれが「ビジネス」や「マーケティング」ということばと結びついていることも、たとえば村上隆などをみれば、わかる。まあそれは、遙か昔から王家や貴族たちが中心となってやってきたことの延長ということなのだろう。
 今でもマーケットの中心にいるのは、裕福かつ「審美眼」を備えたコレクターなのだということが、この本を読むとよくわかる。そして、美術商や「キュレーター」といった存在も含めて、その「サークル」に直接アクセスできる人間は、やはり限られているということも。「アート」は常に、ある種の「階級」を背景としているのだ。
 銀座吉井画廊に生まれ、小林秀雄との思い出を語る1967年生まれの著者、現代美術マーケットの主要メンバーとして世界的に活躍する著者が、彼氏が家に来るので知的な私を表現できる絵を飾りたいという「OL」に束芋の版画を売った、と書く。9.11以降の現代的状況とアートとの関わりをコンセプチュアルに語り、その線上でアーティストや自分の行った企画展を紹介する著者が、現代美術を楽しむのに知識はいらない、「フラットな自己の感性で楽しもうとする」ことが大切、と説く。けしてネガティブな意味ではなく、この落差が、「アート」というものの現実の一面を示しているのだと思う。「芸術」って、かくのごとく懐の深いものなのだ、ということも含めて。

現代アートバブル (光文社新書)

現代アートバブル (光文社新書)