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『建築家は住宅で何を考えているのか』(PHP新書、2008年9月)

建築家は住宅で何を考えているのか (PHP新書 545)

建築家は住宅で何を考えているのか (PHP新書 545)

 ある住まいに一定程度の時間住み続け、その住居の空間的なありようが「身体化」されると、行動や思考は明らかにその枠組みに影響を受ける。家の中にいるときだけではなく、どこにいてもそのいわば「スケール」や「骨格」が認識の土台の一部を形作る。
 人の思考は一面で無際限に自由だが、一方でそんな「殻」を常に背負ってもいる。思考の深化は定住によって担保されるとも言えるし、「殻」の中での自由を最大限に突き詰めようとすれば、異なる空間のあいだを常に移動するスタイルが選び取られる、ということもあるだろう。
 それまで形作られてきた思考・行動のスタイルに親和する空間に身を置きたい、という欲求。あるいは逆に、ある思考・論理のすえに生み出された空間に住むことで、今まで知らなかったあらたな感覚なり認識なりを獲得したい、という意識。それら、「自由」の一端に触れたいという思いの先に、建築家の設計する住宅がある(お金は必要だけれど)。
 この本は、「東京大学建築デザイン研究室・編」。東京大学大学院教授の難波和彦、准教授の千葉学助教の山代悟の3人が執筆している。新書版だが写真や図版も含めて、内容重量ともにずっしりとした本である。そのぶん値段も新書にしては1,400円とお高い(内容からみればお安いと思うけど)。
 住宅設計の現状とさまざまな可能性について、頭の中にクリアな見取り図を作ってくれる。10のテーマが掲げられ、その中で4つずつ、具体的な例が取り上げられ、解説される。建築家の名前を見れば、きら星のごとし。有名なものが多いから、建築に詳しい人ならすでに知っている建物が多いだろう(最初は難波和彦の「箱の家」で始まり、最後は安藤忠雄の「住吉の長屋」、槇文彦の「ヒルサイドテラス」で終わる)。でもこうやって手際よく分類され解説されると、個々の具体例の意味がよく見えてくるのだ。「住む」という形のバリエーションの多様さ、可能性の広さに、読んでいて(図面や写真を眺めていて)わくわくする。楽しく、刺激的。