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金井美恵子『昔のミセス』(幻戯書房、2008年8月)

昔のミセス

昔のミセス

新刊を心待ちにする作家のひとり、金井美恵子のエッセイ集。版元は、評判の幻戯書房。金井久美子装幀・造本・装画はいつもの通り。背表紙は、タイトルと著者名が同じ大きさの赤の活字。表紙のタイトルは、左上にまず著者名、並んで書名。文字の数が同じ、大きさも揃えてある。ほんとうにすてきだ。紙の質、活字の選択と組み方、余白の取り方、どれも心地いい。
「ミセス」とは、文化出版局発行の雑誌『ミセス』のこと。その『ミセス』に連載されていた、60年代・70年代の『ミセス』の中からひとつのページを取り上げて、語る、という趣向のエッセイである。文化出版局って、文化服装学院の出版部門なのだった。
今回も、語られた言葉をひたすら楽しむ。トラーは死んでしまったんだ。ぼくが金井美恵子をはじめて読んだのは大学のころ『文章教室』を、だったし、それを書いたころはまだ30歳代だったはずの金井美恵子も、もう還暦を過ぎたのか。高峰秀子森茉莉澁澤龍彦石井桃子。ミニスカート、ピンクッション、人形の家。
過去と現在が、ヒトとモノが、同じ感触を持って言葉の上にゆっくりと積もっていく。辛辣な観察眼とアイロニーが、それを下から支えている。そういう文章だ。