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町田健『言語世界地図』(新潮新書、2008年5月)

言語世界地図 (新潮新書)

言語世界地図 (新潮新書)

 フジテレビ「タモリのジャポニカロゴス」に出てるコトバの先生、町田健による、世界の言葉ガイドブック。こんなふうに簡単に手に取れて、しかも短いながらもポイントを突いた解説が読めるものって、あまりなかった。
 4ページずつ、46の言語が紹介されているんだけど、ヨーロッパやアメリカ大陸のみならず、アジアや中東、アフリカまで網羅しているところがとてもいい。特に東南アジアやインドあたりの言語状況って、かなりわかりにくいんだよね。でも、この本ではひとつひとつの解説が短いのが逆に功を奏して、地域の言語面での全体像をつかむことができる。当然、政治・歴史との関わりもしぜんと頭に入ってくる仕組み。
 日本語ブームの背後にそこはかとなくある、「日本語って難しいことば」というひっくり返った妙なプチ・プライドを、著者はさらっといなす。

言語としての特徴は極めて「普通」である。(147ページ)

使われる母音・子音の数は少ない方だし、発音も「ごくありふれた音が中心」だ。膠着語としての日本語の名詞は、屈折語とくらべれば規則性が高い。動詞も、英語などとくらべれば活用が規則的である。

したがって、日本語は全体として、いったん規則を習得すれば、その規則に違反する例があまり出てこないような、比較的覚えるのがやさしい言語だということができる。(148ページ)

難しいのは、文字の使い方、読み方だね。

 ヨーロッパの言語に限れば、同じような趣向でもう少し詳しく語っている、アンリエット・ヴァルテール『西欧言語の歴史』(平野和彦訳、藤原書店、2006年9月)がおもしろい。もともとフランス人向けだから、たまにちょっと、日本語にしたらわけわからないな、という部分もあるけれど、具体例豊富で楽しかった。
 たとえば、デンマーク語の「50」はhalvtredsだが、halvは半分、tredsは60。でも、50は60の半分じゃない。これは「3つめの20の半分」を意味する言葉なのだと。そもそも60はtres、こっちは、tresindstyve(3×20)の省略形。つまり、halvtredsは「20×3−(3番目の20÷2)」なんだって。まず3×20であるところの60があって、50はその60にいたるまで「基本単位20の半分」すぎた、という言い方ってことだ。こういう数え方は、ドイツ語で時刻を言うとき、たとえば「5時半」をhalb sechs、つまりヴァルテールによれば「6番目の時間の半分」という、そのやりかたと共通してる。うーん、ふしぎで楽しい!
 あと、ドイツ語の長い単語の例が載っていた。そのひとつは(ウムラウト、文字化けするかも)、

Hochleistungsultrakurzwellengeradeausempfänger 
高性能超短波回路受信機(390ページ)

というもの。日本語の方もすごいけど。

西欧言語の歴史

西欧言語の歴史