ホンダヨンダメモ(はてなダイアリー版)

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C・ネストリンガー作、H・ハイネ絵『トマニ式の生き方』

 クリスチーネ(クリスティーネ)・ネストリンガーが文章を、ヘルメ・ハイネが絵を担当した絵本。原題はDas Leben der Tomanis、1974年の作品である。日本語版は企画制作がCBSソニー、発行がエイプリル・ミュージック。1978年に出ている。そして日本語訳は、星新一。なぜ星新一
 1978年といえば、ぼくが星新一をいちばん読んでいた頃だ。SFといえば小松左京星新一筒井康隆で、あの頃の読書は楽しかったなあ。そして、星新一に激賞されてこの年にデビューしたのが、新井素子(『あたしの中の・・・』)。確か17歳か18歳くらい。新井素子は立教の独文に入って卒論がホフマンの『クルミわり人形とネズミの王さま』だったが、星新一はなぜドイツ語のこの作品を訳したのだろう? ドイツ語ができたのだろうか。最相葉月の書いた伝記になにかでてるかな。
 ネストリンガーについては、また別の本で詳しく紹介しようと思う。あらすじを簡単に紹介すると、主人公は父、母、娘ふたりのマイヤー一家。娘のルイゼ(9歳)とリーゼ(8歳)は模範的なよい子。しかし、ある時父が持ってきた、『トマニ一家の生活』という一冊の本が、すべてを変えてしまう。本に出てくるトマニという怪物のようなものに影響され、娘たちは「よい子」の規範からどんどんと外れていき、しまいには姿までトマニと同じになってしまう。そのことで家族は周囲の大人たちから迫害を受け始める。始めは困惑していた母も、ことここに至って、こう言う。

あなたがたには、悪い点はなにもないのよ。いやなら、戻ることはないんです。いまのままでかまわないの

夜どおし例の本を読んだ父と母は、朝になってトマニに変身している。貯金をはたいて船を買い、海のどこかにある「トマニの島」へと旅立つ。
 おもしろい話かというと、ちょっとあれなのだが、1970年代のいわゆる「反権威主義的児童文学」の流れの中の作品として、ひとつの典型ではあるだろう。トマニは、もじゃもじゃ頭。これは『もじゃもじゃペーター』の子孫のひとりだ。社会が要求する規範、異分子を排除しようとする圧力に抵抗する存在として、トマニは描かれている(2006年に国際子ども図書館で開かれた「もじゃもじゃペーターとドイツの子どもの本」展にも、この作品は「もじゃもじゃペーターの系譜」コーナーで展示されていた)。

あら、パパもママも、あたしたちみたいに、きれいな姿になれたのね

という娘たちに対して、

おまえたちは、おりにとじこめられるべきなんだ。その、みっともない姿を、ほうぼうで見せつけてまわるつもりなのか

という町の人々。
 ヘルメ・ハイネの挿絵が、この話を支えている。ハイネの絵本は日本でもたくさんの翻訳が出ているが、いちばん親しまれているのは 『ぼくたち ともだち』(おおしまかおり訳、佑学社、1989年。現在はほるぷ出版から池田香代子訳で1996年に出ている、タイトルは『ともだち』)だろう。

ともだち

ともだち

 ハイネは1941年ベルリン生まれ、南アフリカで10年ほどを舞台に関わりながら過ごし、1977年にドイツに戻ってからは絵本の制作を中心に活動している。『ともだち』もこの本もそうだが、水彩画のかわいらしい絵柄が特徴的だ。1988年には日本でも原画展が開かれ、来日。月刊MOEの1988年7月号では、来日記念として特集が組まれている。故若林ひとみさんによるインタビューが掲載されている。
 この絵本も、古いMOEも、古本屋でネット経由で購入。MOEの次号予告には、やはりドイツの絵本作家エルヴィン・モーザーの名前がある。これも見てみたいな。