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『現代ドイツ言語学入門』(大修館、2001年)読了

現代ドイツ言語学入門―生成・認知・類型のアプローチから

現代ドイツ言語学入門―生成・認知・類型のアプローチから

 たいへん申し訳ないことだが、睡眠薬代わりにとベッドに持ち込んで読んだ。「ドイツ語は[+V]の素性を持つ範疇が「主要部末尾」であり、[−V] の素性を持つ範疇が「主要部先端」である。V2はC位置への定動詞の主要部移動と、CP指定部への任意の句の移動(非A移動)によって得られる。」(58ページ)なんていうのをいきなり読めば、眠りに誘われそうだなあ、と思って。けれど、章の「まとめ」の部分に書かれたこの文章が、そこまでの説明を読めばちゃんとわかるようになっている。興味深い説明が各所にあり、おもしろく読んでしまった。
 今引用したのは、第2章「ドイツ語統語論の展開」から。生成文法理論を用いた説明である。ドイツ語を習うと、まずは英語との語順の違いに目がとまる。それに意外と日本語と近い(特に副文において)気がするような・・・ということも。たとえば、本書35ページにある例文。Er muss gestern angekommen sein. 英語なら、He must have arrived yesterday.だ。前者を副文にすれば、gestern angekommen sein muss。英語とまったく逆に単語が並んでいる。そして日本語とは「昨日 到着 した にちがいない」で、ほぼ同じ。英独はたしかに逆なのだが、しかしmust や muss を中心として考えれば、そこからの順番は同じだとも言える。動詞を中心とした語の一群を考えたとき、中心となる動詞が「先端」にあるか、「末尾」にあるか、違いはそこだけだ。動詞的性質を持つ語を[+V]と言うことにすると、[+V]では主要部が末尾にくるのが基本語順だと考えられる、というのが、冒頭に引用した部分(の前半)の意味なのだ。初級文法で教える際に、まず不定詞句を作ってから動詞を第二位へ、という説明の仕方をするが、その理論的根拠ということだろう。なるほどなるほど。ただ、この章は生成文法の知識が全くないとちょっと辛いかも。XバーやGB理論までフォローするのは、けっこうたいへん。
 第3章は「語彙と文の意味分析」、意味論だ。外延と内包、項構造など、きちんとたどればおもしろそうだが、ここではちょっとパス。論理式は、ベッドの中で読むのは無理。
 第4章は「認知言語論 ードイツ語における空間認識と移動」。ここは興味のあるところで、そしてやはりおもしろい。ラネカー、レイコフなどの原本を読むのはさすがにしんどいが、その立場(全体論)からドイツ語の移動表現を解きほぐしていく、この章の分析はあざやかでわかりやすい。たとえば:「移動のスキーマ」の「状態変化のスキーマ」への変化がドイツ語では見られ、そこから機能動詞や結果構文が生産される。結果構文とは、119ページの例文を挙げれば、Er hat sich müde gelaufen.(彼は走って疲れてしまった。)のような文のこと。「走る」laufen という移動動詞によって、「疲れる」という状態の変化が表現されている。これが単なる「移動」をもはや表していないのは、他動詞ではないのに laufen が対格(sich)をとっていること、完了の助動詞がhabenであること、方向規定詞が共起できないこと、などからわかる。このような、移動の状態変化への「読み替え」こそが、ひとつの「認知的プロセス」だ、ということ。なるほど。
 第5章は「ことばの獲得」。これも今はパス。第6章「ドイツ語と言語類型論」、これはドイツ語学習の面でも、とても大事なところ。かつて千野栄一先生の著作に親しんだ者としては、これぞ「言語学」、というイメージなのだ。ここでは「格」と「態(ヴォイス)」が取り上げられているが、英語と比較しても、同じゲルマン系言語でもずいぶん違うなということがわかるし、ドイツ語学習においても役立つ情報だろう。This Hotel forbids dogs. はOKだが、ドイツ語では Dieses Hotel verbietet Hunde. とは言えない、とか。あと・・・
 というところで、夜中の12時過ぎて眠くなってきたので、ここまでにします。