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Gerhart Hoffmeister:Deutsche und europäische Romantik

ゲルハルト・ホフマイスター『ドイツとヨーロッパのロマン主義』(2.Auflage, Sammlung Metzler Band170, Stuttgart, 1990.)
 久しぶりに読み返した。
 「ロマン主義」という名前で総称される芸術運動について、ドイツのロマン主義と、その他のヨーロッパ諸国におけるそれを比較文学的視点でコンパクトにまとめた本で、定番的参考書のひとつ。初版は1978年刊。著者のホフマイスターは、2002年までアメリカはカリフォルニア大学サンタ・バーバラ校で比較文学を教え、現在は同大学の名誉教授。大学のサイトには、「バロックロマン主義文学を中心とした、ドイツースペイン、ドイツーイタリア、ドイツーイギリスなどのcross-literary relations」が専門とある。
 「ロマン主義」「ロマン派」と名のつく文学運動はヨーロッパ各国にあるが(日本にもある)、たとえばドイツとイギリス、フランスをざっと眺めただけでも、なかなかその共通点について焦点が結ばない。影響関係も今ひとつ明確になってこない。もどかしい。この本は、そのあたりを該博な知識によって(ちょっと力わざで)新書版に(日本で言えば)まとめている。目次を以下に記す。
A.序論 1.語ならびに概念史 2.ロマン主義と政治
B.本論 1.歴史的視点  2.文学的相互関係  3.ヨーロッパ・ロマン主義の本質的特徴  4.ロマン主義の伝統と遺産(数字は本来はローマ数字)
Bー1では各国のロマン主義の歴史的出自・背景をまとめ、B−2はドイツのロマン主義と各国のそれとを比較。B−3では、それまでの概観をもとに、全体に共通するであろう諸特徴を、[1.美学と詩学 2.世界文学 3.テーマ、モチーフ、登場人物 4.ロマン派作家と社会]という観点から詳しく論じる。ここが本書のメインの部分だ。各章の最後には、かなりの量の文献リストがついている。
 たとえば「イギリス・ロマン主義」といった本があるとして、それを読んでも今ひとつピンとこないのは、こちらがドイツが専門で、しかしそのような本はイギリス文学史のコンテクストの中でのみ語られていて、なかなか接点が見いだし難いせいだ。その意味で、まずはこの本をベースにして自分なりにマッピングしていくといいだろう。とりあえずは、ロマン主義とはどこかに起源があってそこから伝播していったというものではなく、ある背景から同時(でもないけれど)多発的に各地で発生したという側面が強い、ということを確認。共通点としては、フランス革命を背景とすること(自由!)、「歴史」(=自民族の伝統の源泉としての中世)へのまなざし、(古典的)ジャンルの強制からの解放を求める志向、「世界文学」への志向、「自然」への感情・・・。
 Volk(民俗、民族、民衆・・・)の中に新たなKunst(芸術、わざ)の形式を探る、という点も重要だ。メルヘン、叙情詩(リート、バラード、ロマンツェ・・・)。でも、作りだされたものはけっして「素朴」ではない。そこには高度な技巧による主観的な自己表出の試みがみられる。反啓蒙主義的な意識の中で、内面・主観を語るため手法を模索したのである。
 あと、ドイツの作家の中で他国との「つなぎ役」となっているのは、(ゲーテを除けば)E.T.A.ホフマンとハイネだ、ということも再確認した。