ホンダヨンダメモ(はてなダイアリー版)

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奈倉洋子『日本の近代化とグリム童話』

 日本におけるグリム童話受容に関する研究書。

 明治20年代から始まるグリム童話の翻案・翻訳の歴史を第二次世界大戦までたどりつつ、その背景にある日本のそのつどの時代状況を浮かび上がらせようとする。資料に広くあたり、実証的な確認作業をしている点において、信頼できる本。特に、「教育」というものが深く関わっているところ、興味深い。「近代化」にともなう明治期の「上から」の教育と、「赤い鳥」に代表される大正期の「子ども中心主義」的な教育のありかたが、グリム受容をたどることでクリアに見えてくる。「教育」の中でのグリムという問題について、本家ドイツではどうだったのか。調べて比較してみるのもおもしろそうだ。
 翻案っていうのは不思議なものだけど、そこに働くメンタリティのあり方、あるいは比較文化論的要素を検討するのはけっこう楽しそう。最近ハリウッド映画で多い、他国の映画のリメイクというのも、翻案の一形態だろうか。ひょっとして、翻案が成立するには、受け手の意識の問題としての「文化のレベル差」が必要なのかも。どちらが上だと思っているかはケースにより異なるだろうけれど。