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バーバラ・ボルバーン『階級の敵と私 ベルリンの壁崩壊ライブ』(未知谷、2010年11月)

原題は"Der Klassenfeind + ich"。2007年刊。
近所の本屋の翻訳本コーナーで見つけて購入。訳者あとがきに、対象年齢13歳以上のヤングアダルト小説、とある。
1984年4月15日から始まり、1990年4月12日に終わる、日記体で書かれた小説。冒頭では主人公の少女は16歳である。東ドイツ、すなわちドイツ民主共和国への批判的な視線から描かれる、東ドイツ末期の状況と、壁崩壊の様子。内容のかなりの部分が、作者の実体験に即しているとのこと。
巻末には著者による用語解説もついていて、確かに「壁崩壊ライブ」としての「おもしろさ」はありそうだ。「階級の敵」たる西ドイツの男の子と旅行先のハンガリーで知り合う、というこの作品の骨格部分は、ほぼ作者の体験通りとか。
ただ、基調となっている東ドイツという体制への批判的視線は、実際に当時の東ドイツの10代がどれほどリアルタイムで感じていたことなのか、という点について、読む限りでは判断が難しい。そこに留保が必要かも、と思うのは、訳者もあとがきで触れているように、主人公と作者との年齢が数年ずれている、作者よりも主人公は4歳ほど年下に設定されている、ということからくる。もし「伝記的」なり「実体験」を標榜するのなら、このような「操作」は基本的には禁じ手だろう。この年齢の4年は大きいよ。
国境に殺到し、西側へと行こうとする人びとと、自分も同じ行動を取りつつ、しかし感情のまま踊らされているように見える人びとの様子を批判的に描く。作者の実際の父親は「非党員の開業医」だが、作中では「理想主義的な社会主義信奉者」。そのようなものが少しずつ、少しずつ、この作品から、作品と読者の間で成立すべき信頼感をそいでいく。
あと、女の子の語りを訳すのは難しいな、とも思った。イマっぽさを出そうとすると下品になる。その案配が難しい。日記なのにルビが多用されているのも、やっぱり気になる。
この本の出版社は、ジェイムス・クリュスやプルードラの翻訳も出している。このご時世にそれはたいへんにありがたいことだ。でも、出した作品を誰に向けて届けようというのか、もう少し考えてほしいとも思う。もし大人の「資料」になるだけだとしたら、もったいない。やっぱり、対象とされる年齢の子どもたちに読んでほしいから。