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市川春子『虫と歌』(講談社、2009年11月)

 あちらこちらで名前を見る、市川春子の作品集『虫と歌』を近所の本屋で見かけたので、買ってきて読んだ。

虫と歌 市川春子作品集 (アフタヌーンKC)

虫と歌 市川春子作品集 (アフタヌーンKC)

 この、(SF的な)身体への作者の徹底的なこだわりは、なんだろう。すべての作品が、ヒトの姿をしつつもヒトならざるものがその内部を構成している、という話である。いわば、にせものの身体。
 さらに、「星の恋人」と「虫と歌」では、そのにせもの的身体を作成したのは、科学者的人間だ。ピグマリオン? フランケンシュタイン博士?
 確かに「虫と歌」には、短命の定めを受けいれ死んでいく被創造物の主人公と、そのことに直面して苦しむ創造者というモチーフが描かれてはいる。
 しかし、全体としてみれば、さくっと切り取られる腕、分解されゆく体、再構成され異界の存在と融合する身体、といったところに、この作品の特異性が一番現れているのではないかと思える。それを、シンプルであっさりとした線・構図で描いているのである。
 とにかく、不思議な味わいであることに間違いはない。諸手を挙げて「おもしろい」というわけではないのだが、妙に気になる作家なのだった。
 すてきな装幀は、作者本人によるもののようだ。初出見ると、1年に短編1作づつ。本職がべつにあるのだろうか。