ホンダヨンダメモ(はてなダイアリー版)

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金原ひとみ『憂鬱たち』(文藝春秋、2009年9月)

帯に「『蛇にピアス』から6年」とある。その間コンスタントに作品を発表している金原ひとみは、りっぱに「作家」をやり続けている。これはたぶん初めての短編集ではないだろうか。といっても連作形式の作品であり、いわば変奏曲風の仕立てとなっている。
7編のどれも、登場人物は主人公の女性神田憂とカイズさん、ウツイくんの三人である。精神病院に行こうとして必ず果たせず、常に別の場所にさまよいこんでしまう神田憂の、周囲と自分への違和感と性的なことがらに溢れた、だだ漏れの思考をたどるのは、けっこうきつい作業なのだが、なぜか律儀に読んでしまう。
まじめに書いてるんだろうな、と思う。こちらも、きちんとおつきあいしなきゃ、と思う。
けして楽しい読後感ではないが、読み終わってこちらにしっかり残るものがある。悪い気分ではない。
作者個人を思わせる部分と、非現実的な世界とが、飲み屋やらコンビニやらタクシーの車内やら、そこらのありふれた舞台装置のなかで奇妙にまぜこぜになっているのが、作者の芸風だろう。
装画がきれいだ。