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宮下誠『ゲルニカ ピカソが描いた不安と予感』(光文社新書、2008年1月)

ゲルニカ ピカソが描いた不安と予感 (光文社新書)

ゲルニカ ピカソが描いた不安と予感 (光文社新書)

  ぶらりと近くの繁華街へ出て、本屋や服屋をぶらつきつつ(桜玉吉を2冊購入)、喫茶店に入ってこの本を読む。光文社新書での、『20世紀絵画』(2005)『20世紀音楽』(2006)に続く3冊目の著作。國學院大學の美術史の先生である。前2作も刺激的だったが、この本もおもしろい。「乱反射するプリズム」(215ページ)たる芸術作品のモデルケースとしてピカソの『ゲルニカ』を取り上げ、その「乱反射」のありようを、それこそ多様な角度から光をあてることで浮かび上がらせる・反射した光を追いかけ、出どころを探る。これは、まず美術・芸術の講義として第一級のものだと思った。芸術作品が生まれ、「美術史」の中に位置をしめ、人々がそれを受け止め鑑賞し「解釈・研究」する=ことばに紡ぐ。そのような運動の具体的な軌跡が、見取り図が、読み進めるごとに次第に頭の中にできてくる。同時にピカソという巨人の芸術と生の全体像も見えてくるという仕掛けだ。「新書」としても、内容の深さ・広さと読みやすさが両立しているように思う。
 なにより、著者がアツいのがいい。特に「おわりに」の、ほとんどアジテーションのような文章。最近始められたらしいブログを見たら、著者は石愛好家のようだ。ここにも、芸術と鉱物の結びつきを発見。