ホンダヨンダメモ(はてなダイアリー版)

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目についたカフェにふと入るようにカフェ本を買った

 センター南駅にちょっと用があって行ったのだけど,駅前のSCにクルマを停めて,用事を済ませて,駐車は2000円のお買い上げで無料,たしかリではじまる3文字の名前の本屋が入ってたなと記憶を頼りに探すも見つからず,店内案内を見ると百貨店のほうに移っていたのだ。
 行ってみれば,以前と比べてなんだか情けない感じの売り場である。雑誌やNHKドイツ語講座テキストなどを確保し,あと5百円くらい,ではこのあいだ発売になったあの文庫を買おう,と文庫本コーナーに行くも,ない。ではあの新書は出たばかりのはず,と探すと,やはりない。ここは出たばかりの文庫や新書さえ置いてないのか,まんなかがブの3文字の名前の本屋でこのような状態か,と非常にさびしい気持ちになったのだった。
 ではどうしよう,何を買おう,と思っているうちに,ぽっこりおなかの下にズボンのベルトがくい込んでいるのの,そのちょっと下あたりがきゅうっと痛くなってきた。うむ,これはまずい,てんで5百円以上千円以内の本を探すのだが,どうもかんばしくない。買うつもりの雑誌を数冊手に持っているのを,いちど返してトイレに,というのもめんどうくさいしばからしい。しかし最後がロで終わる3文字の名前の本屋なのにこの薄っぺらい品揃えはどうしたことか。気ばかり焦り,腹は痛む。
 そんな状態のなか,目にとまったのが,川口葉子『東京カフェ散歩 観光と日常』(祥伝社黄金文庫)。「観光と日常」というサブタイトルがいいじゃないか。ふらふら関東圏をさすらう人間にとって実用的でもある。これだと決めてはっしと掴むとレジへ急ぎ,お会計のあとちょっと小走りでトイレへ…。
 この本,実際なかなか良かったのだ。著者の文章が簡潔で上品で,ひとつひとつのカフェのあらましを,過不足なく記している。喫茶店やカフェはもちろん誰かが営んでいる。その人たちの顔もきちんと見えてくる。谷中の「カヤバ珈琲」の項は,こんな具合にはじまる。

  谷中の中心は,カヤバ珈琲のある十字路なのだそうだ。一九一六年, 「角地に建つ家は見栄よく」という大正時代の美意識のもとに建てられた,出桁造りの二階家。三八年から榧場さん一家はその建物で喫茶店を営み,谷中のランドマークとして七十年近く親しまれてきた。

これだけで,この喫茶店の風情が浮かんでくる。こんなふうに,どうということもなさそうな文章をさりげなく書くのは,なかなかむずかしい。
 「日常」使いの喫茶店が欲しい。今,ひとつ近所にあるけれど,もっと「まち」の中にあるカフェで過ごしたい。そういうのってスノッブかしら…。

東京カフェ散歩 観光と日常 (祥伝社黄金文庫)

東京カフェ散歩 観光と日常 (祥伝社黄金文庫)