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黒田龍之助『ことばは変わる はじめての比較言語学』(白水社、2011年12月)

ことばは変わる ─ はじめての比較言語学

ことばは変わる ─ はじめての比較言語学

「外国語大学」での講義をもとにした、「比較言語学」の概説書。比較言語学といえば厳めしく重々しく髭を生やした博士がしかめっつらで論じているようなイメージだが、それを軽やかにひっくり返して痛快。
比較言語学のポイントは「変化」と「系統」と「法則」だけれど、著者は正統的な比較論から少しはみ出して、本の後半分では言語接触ピジンクレオール、言語地理学、言語戦争など、ことばが「変化する」ありようをさまざまな側面から紹介してくれる。
そして、その記述に信頼が置けるのは、著者が多数の言語を習得した・しつづける「語学好き」であることによる。言語学関係の本の著者で今そういう人はなかなかいなくて、著者自身も本の最後で自分の立ち位置をあらためて確認しているのだ(歩むのは「複数言語学」の道、と)。
著者とぼくは、同世代。こちらは語学はからきしダメだけど、でも言語学・語学の分野で、あの時代の同じ空気を吸っていたんだな、と感じることが読んでいて多々あった。

 フランス語を教えながらソシュールについて研究した人。
 チェコ語を教えながら一般言語学の講義を長らく担当した人。
 スワヒリ語を教えながら言語人類学を紹介した人。
わたしが共感するのは、そういう人たちが書いた著作なのだ。
(222ページ)

ああ、みなぼくが十代後半に愛読した著者たちだ! あとのお二方は大学で授業を受けもした。ぼくの思考のベースの一部はそれらの著作によって形作られている。
入門書を魅力的に書くのはきっとすごく難しいことだ。黒田氏はそれをさらっとこなしている。このような本を「ことば」好きの高校生が読んでくれるといいなと思う。そしてわくわくしながら大学に入ってきてくれるといいな。