ホンダヨンダメモ(はてなダイアリー版)

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ル=グウィン『ヴォイス』(谷垣暁美訳、河出文庫、2011年3月)より

わたしはお告げがどうして単純明快な言い方をしないのか―謎めいたイメージやあいまいな言葉の代わりに、「抵抗するな」とか「さあ、戦え」とか言わないのか、訊きたいと思っていた。けれども星々を見ているうちに、それは愚かな質問だと思えてきた。お告げは命令を下すのではない。その逆で、考えるように促すのだ。謎に対して思考を寄せることを、わたしたちに求めるのだ。考えて行動した結果が思わしくなくとも、おそらく、それがわたしたちにできる最善のことなのだ。(211ページ)

「おふたりには子どもが生まれなかったのですか?」
「生まれたわ。女の子よ」グライはいつもの静かな声で答えた。「メサンにいたときに熱病でなくなったの。六か月だったわ」
私は何も言えなかった。
「生きていたら十七歳よ。あなたはいくつ、メマー」
「十七歳」答えるのがつらかった。
「だと思ったわ」グライはわたしに微笑みかけた。〈高橋〉の街灯の淡い光のなかに彼女の微笑みが浮かび上がった。「メルという名だったの」
 わたしはその名を口にした。小さな影がそっとわたしに触れた。
(319ページ)