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ジュノ・ディアス『オスカー・ワオの短く凄まじい人生』(新潮社、2011年2月)

オスカー・ワオの短く凄まじい人生 (新潮クレスト・ブックス)

オスカー・ワオの短く凄まじい人生 (新潮クレスト・ブックス)

 前回のダンティカはハイチ生まれのアメリカ人だが、『骨狩りのとき』の舞台であるドミニカ出身のアメリカ人作家であるジュノ・ディアスが書いた『オスカー・ワオ』は、手法はまったく異なるものの、やはりある時代と場所の記憶が「呪い」(「フク」という名前の)という形でいかに「今」の世界に拡散しているかを、鮮やかに描き出している小説だ。
 たいそうおもしろいのだ。
 帯の惹句には「マジックリアリズムオタク文化が激突する、新世紀アメリカの青春小説」とある。まあそういうものなのだろうが、戯画化されたドミニカ系アメリカ人オタク青年の姿も、マニアックでトリヴィアルなサブカルチャー的情報の細部も、小説の深度と密度を与える道具立てであって、重要な要素ではあるがそれが本質というわけでもない。
 トルヒーヨ独裁時代に始まる、ある家族の年代記。ポップな『ブッデンブローク』。「民族」とか「家族」とかに世代を超えて絡みつく「何か」がある。それを「フク=呪い」として設定し、時間を前後させつつ、かつ言語を錯綜させつつ(原文はスペイン語やオタク的情報が説明抜きで英語に混ぜ込まれている)、語っていく。手法は斬新だが、楽しくかつ衝撃力のある、同時にオーソドックスでもある「物語」だ。
 そして、悲しく恐ろしい物語なんだよ。