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今井むつみ『ことばと思考』(岩波新書、2010年10月)

ことばと思考 (岩波新書)

ことばと思考 (岩波新書)

言語と思考、である。サピア=ウォーフ仮説である。懐かしいこのテーマ。著者は言語学者文化人類学者ではなく、言語心理学発達心理学が専門。さまざまな心理学的実験を通して、言語と思考の関係を調べていこうという研究を、わかりやすく解説した本。
これは目次を見てもらうのが、内容紹介としては一番だと思う。備忘録もかねて挙げておこう。

序章  ことばから見る世界 ― 言語と思考
第一章 言語は世界を切り分ける ― その多様性
     色の名前/モノの名前/人の動きを表す/モノを移動する/モノの場所を言う/ぴったりフィットか、ゆるゆるか/数の名前のつけ方
第二章 言語が異なれば、認識も異なるか
     言語決定論、あるいはウォーフ仮説/名前の区別がなくても色は区別できるか/モノと物質/助数詞とモノの認識/文法のジェンダーと動物の性/右・左を使うと世界が逆転する/時間の認識/ウォーフ仮説は正しいか
第三章 言語の普遍性を探る
     言語の普遍性/モノの名前のつけ方の普遍性/色の名前のつけ方の普遍性/動作の名前のつけ方の普遍性/普遍性と多様性、どちらが大きいか
第四章 子どもの思考はどう発達するか ― ことばを学ぶなかで
     言語がつくるカテゴリー/モノの名前を覚えると何が変わるのか/数の認識/ことばはモノ同士の関係の見方を変える/言語が人の認識にもたらすもの
第五章 ことばは認識にどう影響するか
     言語情報は記憶を変える/言語が出来事の見方を変える/色の認識とことば/言語を介さない認識は可能か
終章  言語と思考 ー その関わり方の解明へ
     結局、異なる言語の話者はわかりあえるのか/認識の違いを理解することの大事さ

ウォーフの仮説は正しいか? 実験でわかるのは、言語と思考とはやはり切り離せない、言語は思考の深くに入り込み、影響を与えている、ということだ。その意味で、ウォーフ仮説は正しい。
だけどその影響とは、ことばがなければ実際にあるモノを知覚できなくなってしまう、ということではなくて、逆にことばがあることで、モノの認識をことばが規定する「カテゴリー」に引っ張ってしまう、歪ませてしまう、というものなのだ、と。
実際に、実験によって、個別の言語を超えたカテゴリー分けの普遍性はあるということがわかるらしい。
たぶんそれは、丸山圭三郎の言う「身分け構造」と「言分け構造」というやつなのだろう。だから、本書は全体としては新たな知見を提出しているわけではないように思える。でも、そのことが心理学的実験によってあぶり出されるところがスリリングでおもしろいのだ。
というわけで、おもしろかった。世界のいろいろな言語の対照論としても読める。高校生や大学生におすすめ、だと思った。