松浦理英子『犬身』(朝日新聞社、2007年10月)読了
- 作者: 松浦理英子
- 出版社/メーカー: 朝日新聞社
- 発売日: 2007/10/05
- メディア: 単行本
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さて、読んでみて、これはこれでおもしろい。やはり設定がものをいっている。犬に変身するが、人間的な思考は失われない。ことばは話せないが、しかし「人間的」なコミュニケーションの場がひとつ確保される。飼い主の女性の異常な(と、とりあえず言っておくが)境遇と、そこに巻き込まれていく主人公。そして、犬を飼っていたことのある人なら、ここに描かれている犬と人との交流のあり方は、「そうそう、そうなんだよねえ・・・」とため息を漏らしてしまうだろう。
ただ・・・ただねえ、期待ほどではなかった。このブログではあまり批判はしないことにしようと思っているのだけど、でも、物足りなかった、ということは言っておきたい。帯に書かれている惹句から期待されるような展開・内容とは、物語の途中からどんどんと離れて行ってしまう。主人公とその飼い主との関係は、犬好きが「あるある!」というレベルからどこまで独自の展開を見せるのか。もちろん「あるある」と思わせるだけでもすごいのだが、「新たに切り開かれる魂とセクシュアリティ」(帯の文句)はどれだけ描かれているのか。まあ、宣伝文句は作者本人や作品と直接関係ないといえばそうなのだが、しかし『親指P』をおもしろく読んだ読者としては、期待してしまうじゃないですか。飼い主の女性のグロテスクな家庭環境についても、松浦理英子だからこそこれだけギリギリと嫌らしく(飼い主の兄はすごい)リアルに描けたのだと思うし、ぐいぐいと読んでしまうのだが、しかしこういうのって内田春菊なんかがそれこそ「リアル」に語っているところの、けっこうなじみの人々でもある。あ、でも、飼い主の母は良かった。ある事柄に関するちょっとしたどんでん返しも含めて。
ホンダは猫好きなので、漱石の『吾輩』や大島弓子の『綿の国星』がまた読みたくなりました。最後に言っておきたいこと。朝日新聞の囲み記事に松浦理英子の談話を含めたこの作品の紹介があったのだが、結末の部分バラしてる。あれは反則。あと読書欄での斎藤美奈子の書評、なんだかいい加減だった。