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イヴ・シュヴレル『比較文学入門』(白水社、2009年3月)

 比較文学、ということで言えば、この3月に白水社のクセジュから出た『比較文学入門』(小林茂訳)がとりあえずの入門書としてちょうどいい。

比較文学入門 (文庫クセジュ)

比較文学入門 (文庫クセジュ)

 フランスのシリーズなのでフランス中心の語り方にはなるが、しかし文学を「比較」するというときに押さえておくべき論点を見通しよく概観できるので、なんだかよくわからない「比較文学」というものがなんとなくわかったような気にさせてくれる。それだけでも精神衛生上よろしい。
 「比較」するには「境界」(の設定)が必要である。そしてたいていは言語的なものであるその境界を越えて、文学作品は読まれ、翻訳され、影響を与える。個別性の中に「言語」なり「神話」なり「各国文学史」があり、しかしそれらを比較するに際してはなんらかの道具だてが必要となる。解釈学? 受容美学? 文体論? 詩学? インターテクスチュアリティ?
 また、ゲーテとドイツロマン派の人々がこの分野ではひとつの期を画すものであることも、よくわかる。たとえばE.T.A.ホフマンにはイギリスから、フランスから、イタリアから、スペインから多様な文学的要素が流れ込み、そしてそのホフマンの影響がフランスへ(アン・ラドクリフやホレス・ウォルポール+ホフマン→ゴーティエ)、ロシアなどへと流れ出る。「世界文学 Weltliteratur」はナショナルなものの固定化と流動化の上にはじめて成立する概念なのだ。
 ところで明日はドイツの子どもの本の講義があるんだけど、ドイツの『少年の魔法の角笛』と日本の「唱歌と童謡」ってその成立の背景を比べてみるとおもしろそうだ、ちょっと似ているとこがあるし、という話をしようと思ってる。これは「比較」論にまでもっていけるかどうか。